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被介助者の体重を介助者が支えることは,介助動作の安全確保,介助者の腰痛を防ぐ観点からすると避けるべきです.穏やかに「好ましくありません」という表現はあえて使わずに強調します.
介助を行ったことのある人で,何割の人が腰痛を経験したかの統計資料は見たことがありませんが,筆者の予想では,100 %にかなり近いのではないかと思います.
原文に当たったことはありませんが,ヨーロッパでは労働基準法に相当する法律で,20 kg(あるいは25 kg)を超える負荷を支えるような作業に従事させてはならないと制限を加えているとのことです.これ以上の重さのものを扱うときは,何らかの補助装置を使用しろと規定しているわけで,介助も規制の対象とのことです.
一方,介助動作中に腰の部分にどの程度の負荷が作用するかを測定した報告によりますと,二人掛かりで被介助者を持ち上げても腰痛に対する許容限度を超えると言っています.介助の方法は何通りもありますが,前屈みで体重を支える動作では許容値はそう大きくありません.蛇足ながら付け加えますと,介助時は,できるだけ相手に体を密着させます.相手の重心と自分の背骨の距離をできるだけ小さくすることが腰への負担を軽減します.
ヘルパーとして介助を仕事としている人に対する調査結果を見てみますと,介助動作中に被介助者から手が放れ転倒させてしまった例や,二人とも転倒した例が報告されていました.ベッド回りの狭い場所での転倒は重大事故に繋がります.
危険な状況になる,腰痛の原因となるのは被介助者の体重を人力で支えようとするからです.これを福祉機器に置き換えれば,両者の安全確保が図れます.ここに福祉機器の存在する理由の一つがあります.
機器で体重を支えるためにはそれなりの設備を整え,使用法を身につけなければなりませんし,実際の動作には手間がかかります.二人掛かりで,あるいは一人で「よっこらしょっと」ベッドから車いすへの移乗を行えば数秒ですんでしまいます.福祉機器の現状は,所要時間の面で人力に遠く及びません.
費用もかかるように思われます.しかし,けがをしたり,腰痛になったりしたときの治療費や,介護の質の低下を考えれば,さほど高い投資にはならないと思うのですがいかがでしょうか.
左側の写真は,リフト(別名ホイスト)という機械に体重を全て預ける方法を示します.右側の写真は,楕円で示しますボード上を滑って車いすからベッドに戻ったときの様子を示します.いずれも介助者が体重を支えないですむ方法です.リフト,スライディングボード共に介護保険の対象です.
高齢者を寝たきりにしないためには,ベッドから離れる機会を増やす,家の外へ出る機会を増やす,物理的な面積の面でも,社会的なつながりの面でも活動範囲を広げることなどが必要です.ベッドから車いすへの移乗が負担になればそのような機会が減ってしまいます.
入浴が負担になれば暑い夏でも入浴の機会が減ることになります.入浴の巡回サービスもありますが,毎日利用するというわけにも行きません.浴室に設置するリフトもあります.
安全に,生活の質を高めるために,という観点から福祉機器の導入を検討してみてください.
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