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3-10-4 前輪の持ち上げ方

 前輪を持ち上げることはかなりの重労働です.少しでも楽に前輪を持ち上げる方法を紹介しますが,非力な人には困難な操作です.

車いすの前輪を持ち上げる従来方式の説明図

 車いすの前輪を持ち上げる方法としてよく知られている方法を左に示します.
 後輪の車軸の下に後ろに伸びているパイプがありますが,これをティッピングバーと呼びます.左の図の赤線で示した部分です.
 このティッピングバーを足で踏み,ハンドルにも下向きの力を加え前輪を持ち上げます.

 このとき,力学的には次のようになります.

W*d1 < F1*d2 + F2*d3

 後輪が接地している点を中心に,重心から下向きに作用している体重が時計回りのモーメントを発生させます.このモーメントより大きい反時計回りのモーメントが作用しますと前輪が持ち上がることを上の式は示しています.
 反時計回りのモーメントは,ティッピングバーを踏む力とハンドルを下に押す力で発生させます.それぞれの力と,接地点からの距離をかけ算しますので,距離が小さいと大きな力を必要とします.
 実際の車いすでは,両方とも距離が小さく,大きな力を必要とします.

小さい力で前輪を持ち上げる方法を示す説明図

 少しでも小さい力で前輪を持ち上げるためには,力を作用させる距離を大きくすることです.その方法を左に示します.
 左の図は,ティッピングバーを足の裏で押さえ,ハンドルを水平やや下向きに引き,前輪を持ち上げる方法を示しています.力学的には次のようになります.

W*d1 < F*d2

 力が作用する点までの距離が大きくなりますので,その分ハンドルを引く力が少なくてすみます.
 ハンドルを後ろに引きますので,車いすが後ろへ走行することを防ぐためのブレーキとしてティッピングバーに足を当てます.ハンドルに走行ブレーキレバーがある場合にはブレーキを働かせておけば,ティッピングバーに足を当てる必要はありません.
 先に紹介しました方法に比べ,数分の一の力ですみますが,重労働であることに変わりはありません.


 体重による時計回りのモーメントを小さくすることも一つの対応方法です.そのためには,重心線が通る位置をできるだけ後ろにすることです.上の図のd1を小さくすればよいのですが,車いすが後転しやすくなります.上り坂での注意が必要です.若い活動的な人が使用することを想定した車いすでは重心線が後ろを通り前輪を持ち上げやすくしてありますが,誰が乗るかわからない既製品では前方を通るようにして,安定性を高くしてあります.


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