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従来の短下肢装具には,足関節を固定する硬い装具と,足関節が動きやすい軟らかい装具があることを述べました.ここでは硬さがどのようにして歩行に,そして膝関節に影響するのかについて述べます.
左の図は,足関節を固定する硬い短下肢装具を装着したときと,下垂足を矯正するだけの軟らかい短下肢装具を装着したときそれぞれで,かかと接地の直後にどのような現象が起こるかを示しています.
かかと接地をした直後に,赤い矢印で示します床から作用する力により青い矢印で示します足関節を下へ伸ばすモーメントが作用します.硬すぎる短下肢装具を装着していますと,足関節が伸展せず,かかとを中心として短下肢装具全体の回転運動が生じます.短下肢装具の回転により下腿部が後方から押され,膝関節が早く前方へ移動し屈曲します.膝関節の屈伸に関係する筋力が十分にありますと膝が屈曲したままでも姿勢を維持できますが,麻痺していますとこの屈曲により仰向けに転倒します.
硬すぎる短下肢装具を装着した場合,発症前の歩行と同じように,大きく踏み出し,つま先を開かずに歩こうとしますと転倒します.そのため,麻痺側の足を踏み出して,少しでも歩幅を広くし,歩行速度を上げようとしますと,つま先を外へ向けて膝折れ,すなわち転倒を防ぐ必要性が生じます.前のページで片麻痺者の歩行の特徴として,つま先を外へ向けて歩くことを述べましたが,その原因の一つは短下肢装具が硬すぎるところにありました.
硬すぎる短下肢装具は膝折れの原因となると述べましたが,麻痺のない人がこの現象を体感する簡単な方法があります.それはスキー靴を履いて歩くことです.スキー靴は足関節の動きを拘束しますので,硬すぎる短下肢装具を装着したのと同じように,靴によって膝を曲げられる現象を実感することができます.転倒に注意してお試し下さい.
反対に軟らかすぎる短下肢装具を装着しますと,かかと接地直後に足関節が回転し,足底全体が短時間の内に接地します.硬すぎる装具と異なり膝関節を前方へ押し出す力が作用しません.自力で膝関節を前方へ進める,つまり,背屈方向へ足関節を戻す筋力がありませんので,膝関節の前方への移動が遅れます.そのため,重心位置が前方へ移動したとき,荷重線が膝関節の前を通ることになり,膝関節を伸ばす方向へモーメントが作用します.膝折れによる転倒の危険性はなくなりますが,過伸展は膝関節にとりまして好ましいことではありません.
軟らかすぎる装具を装着して,大きく踏み出せば踏み出すほど過伸展方向のモーメントが大きくなります.つま先を大きく外へ向けて歩きますと,過伸展方向のモーメントは減少しますが,左右方向へ曲げるモーメントが増えます.
片足を前に踏み出し,足底を接地します.その状態で静止し,膝を伸ばします.そして,上体を少し前へ倒し後ろ足でけり出し前方へ移動します.この動作で過伸展方向の曲げモーメントを実感することができます.
硬すぎる短下肢装具の影響はもう一つあります.歩行中,麻痺側で体重の大部分を支持した後,健側を前方へ振り出します.そうしますと,麻痺側では足部より股関節の位置が前方へ進みます.硬すぎる短下肢装具を装着していますと,足関節が背屈しませんので,前方への体の移動にブレーキをかけることになります.また,左側の硬で示しました図のように,早いタイミングでかかとが床から離れてしまいます.
右側は,足関節の背屈がしやすい軟らかい,あるいは抵抗が作用しない短下肢装具の場合で,硬すぎる短下肢装具に比べ長い時間足底全体が接地しています.こちらの方が,前方への体の移動が滑らかであり,安定もしています.
麻痺側で抵抗なく背屈しましても転倒の原因にはなりません.背屈が起こるときには健側が前方へ出ております.足関節が背屈しないように装具で固定したり抵抗を与えたりする必要はありません.先に述べましたように,短下肢装具が原因の転倒はかかと接地直後の膝折れにより発生します.硬い装具による固定や抵抗は体の滑らかな進行を阻害します.
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