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10-3 短下肢装具の役割と限界

下垂足の図

 左の図は麻痺した足を持ち上げるとどうなるかを示しています.つま先を持ち上げる筋が麻痺しているためにつま先が下に垂れさがります.これを下垂足,あるいは尖足といいます.歩行中足部が床から離れる期間がありますが,麻痺がありますと,つま先が床から離れなくなります.足をより高く持ち上げればつま先が床から離れるのですが,下肢全体が麻痺していますので困難ですし,この状態で歩くために足を振り出すと危険です.
 短下肢装具の機能の一つは,つま先を持ち上げ,下垂足を解消することにあります.この点につきましては誰も異論がありません.


 下の図は健常者の歩行の1周期を細分化したものです.下腿部に赤と青の色塗りがありますのは,そこにある筋肉が働いていることを示しています.赤の筋群はつま先を上へ持ち上げる方向の力を発生し,青の筋群は下へ伸ばすための筋で,歩行時には後ろへけり出し推進力を発生します.DACS AFOを始めとする短下肢装具は,上の図で説明しましたように,足部が床から離れている13~15の区間,赤で示しました背屈筋群が発生する力の不足分を補います.推進力を発生するには非常に大きい力が必要で,その力を発生する装置を短下肢装具の大きさの中に納めることは現在の技術では残念ながら実現できません,と開発当時は考えていましたし,現在も考えています.もちろん動力装具を目指した研究も行われていますが,実用化はだいぶ先になると考えています.

歩行の分解図前半
歩行の分解図後半

 短下肢装具にはもう一つ機能が期待されておりました.それは,歩行中はどうしても麻痺側の下肢だけで立たなければならない時間があります.上の図で,右側が麻痺しているとしますと,5~9の区間です.片足で立っている間に足関節が前か後ろへ曲がり転倒することを防ぐことが期待されていました.
 転倒を防ぐ目的で足関節を動かないように固定する硬い短下肢装具が存在する一方,下垂足を解消するだけで足関節が動きやすい軟らかい短下肢装具もありました.このようなバラエティは,麻痺の程度に対応した歩行を再現するするために考えられ,様々な短下肢装具が工夫されてきました.

 しかしながら,いろいろな特性をもった装具による歩行を分析することにより,短下肢装具の機能は別なところにあることがわかりました.上の図で,1~2の区間下腿部の前側の筋が働いています.この区間は,1でかかとが接地し,2で足底全体が接地しています.赤で示しました筋は,つま先を持ち上げる方向に力を発生し,かかと接地から足底全体が接地するまでの時間を調節するために働いています.
 この時に必要とされる筋力は,下垂足を解消するために必要とする筋力よりも数倍の大きさとなります.下垂足を矯正するだけの軟らかい短下肢装具では補助力が不足します.反対に足関節を固定する硬い短下肢装具では過剰になりすぎます.不足しても,過剰になっても歩行時に膝関節に不要な負担を負わせることになります.更に,過剰ですと歩き方によりましては膝折れによる転倒の原因となります.歩行分析によりこのようなことがわかりました.
 短下肢装具には,かかと接地直後に果たすべき役割があり,膝関節に影響を与えることは従来未解明でした.そのため,短下肢装具は自力歩行の実現という観点から,下垂足や足関節の変形へ対応しつつ安定した歩行の確保という面で工夫が重ねられてきましたが,膝関節の負担の軽減という視点はありませんでした.膝関節の負担の軽減が結果的に安定した歩行の確保に繋がっています.この点も従来の知見にはありませんでした.


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