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      蛙

  幼い頃、お墓参りに行った時のこと。
 ひときわ背の高いお墓に近づいた時、母が口に人差し指を当て、小声で
 「静かにね。金恵さんが、カエルになって現れたのかもしれない。驚かさないようにそーっとね」という。
 母の目線の先を見上げると、「海軍中尉」と深く掘ったところに、緑色のアマガエル。
  じっとこちらを見ていて動かなかった。今でもその時の感動を覚えている。あれから何十年も経て、繰り出し位牌の扉にいた
 蜘蛛と様子は同じだった。
  金恵さんは学徒動員で、北海道の小樽商業高校から海軍へ、
 そして靖国神社に。
 いつか時期が来たら人間界にかえると、言いたかったのだろうか。
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