古いアルバム

  幼い頃、兄たちは山に行ったり、川に行ったりで忙しい。
 ともだちは留守だし、何かすることないかなぁと
 一段一段、ペタペタと手をつきながら二階へ、真ん中の部屋は昼間でもちょっと暗い。
 ふすまを開けると、すぐ目に入る祖父・祖母の大きな写真。
 部屋の何処に居ても私と目が合う。悪いことしたら罰が当たりそう、恐る恐る入る。
  そうだ、ミルクのみ人形、押し入れにあったんだよね。開けると高いところに何か本らしきもの。
 突然好奇心が湧いてきて、椅子を運ぶ。触るとかなり重そう。それでも畳に置き、張り切った気分で開いてみた古いアルバム
 清水のおばさんと母が、大きなツバ広の帽子を斜めにかぶりロングドレス。
 こんな服装の挿絵を母の本棚で見たことがある。 えっ、と思った。
 母は椅子に座り、赤ちゃんを抱いていた。
 大きな瞳、すごく可愛い、兄弟の誰でもない。
 台所に母を見つけ、「あの赤ちゃん、誰、どこの子?」母は作業の手を止め
 「あれはね、前の家に置いてきた子」前の家の意味も分からないまま
 「なぜ連れて来ない,連れてくればいいのに、私が遊んであげたのに」
 今すぐ連れてきて、と言わんばかりにせっついた。
 母は何か言おうとして押し黙り、私は、何かを感じて
 「すっごく可愛いね」と言ってその場を離れた。

  台所の母は、よく懐メロを口ずさみながら食事の支度をしてくれていた。
 ほとんど女学校時代の歌。「いつも歌っているね」母は
 「悲しくなると歌うんだよ」
 悲しい意味も、感情も理解できない頃だった。
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