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 母は椅子に座り、赤ちゃんを抱いていた。
 大きな瞳、すごく可愛い、兄弟の誰でもない。
 台所に母を見つけ、「あの赤ちゃん、誰、どこの子?」母は作業の手を止め
 「あれはね、前の家に置いてきた子」前の家の意味も分からないまま
 「なぜ連れて来ない,連れてくればいいのに、私が遊んであげたのに」
 今すぐ連れてきて、と言わんばかりにせっついた。
 母は何か言おうとして押し黙り、私は、何かを感じて
 「すっごく可愛いね」と言ってその場を離れた。

  台所の母は、よく懐メロを口ずさみながら食事の支度をしてくれていた。
 ほとんど女学校時代の歌。「いつも歌っているね」母は
 「悲しくなると歌うんだよ」
 悲しい意味も、感情も理解できない頃だった。
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