光は届かない。
世界の果ての、永遠の煉獄。
石造りのじめじめした床に両膝を突いて壁を見上げた。
独房の壁に造られた明り取りの小さな窓から鈍い月光が射し込んで、石室のおぞましい光景に悪夢の陰影を落とす。
半身を戒められて荒い息を吐く傍らで、じっと佇む漆黒のケープから二対の視線が注がれている。虚無を思わせるその目は、しかし今確かに嘲笑っているのだろう。
アズカバンの看守達は、人の眼を持たない。魂を吸い、精神を蝕むその吐息。囚人達の精神と肉体を思う様嬲って搾り取る嗚咽が彼らの食料なのだ。
「っ…!」
急に髪を掴まれて顔を引き上げられた。
身じろぎした拍子に、深々と秘所に穿たれていた看守の性器が強く内壁をえぐる。ヒュッ、と肺から笛のような音が漏れた。吸魂鬼のペニスは氷柱のように冷たく、硬い。熱くなるのは掻き回される部分ばかりで、身体は血の気が引いて痺れ、末端神経がささくれ立ってちりちりと皮膚が痛んだ。
何度も込み上げて来る吐き気を、石壁に爪を立てて耐えた。
意識を失う事は許されていない。
目を閉じれば頬を張られ、更に酷く蹂躙された。
既に半刻以上犯され続けた肉体はとうに宿主の理性から離れ、微かな刺激にもおこりの様に痙攣する。
歯を食いしばって声を抑える事だけが、唯一残された抵抗だった。唇が千切れてどす黒い血が顎に滴る。吸魂鬼は灰色の唇を吊り上げると、爬虫類じみた動作でぬるりとそれを舐め取った。
もつれる意識は、時折無秩序な記憶の海に滑り落ちる。
心をえぐるだけだと解かっていても、とめども無く湧き上がって来る映像。
穢れの無い顔、声、澄んだ空気の感触。
柔らかい肌、さらりと揺れる髪。
褐色の瞳、名を呼んで笑う頬の線。
嗚咽に霞んだ夜空、
駆けるバイクの振動に泣き出したか細い声。
抱き締めた小さな身体、硬く握り締めたもみじの掌。
見上げる緑の瞳、
―――――― ……… 、
一点を突き上げられた瞬間、、全身に電流が流れるような衝撃が走った。看守は声を立てずに気配で哄うと、シリウスの腰を軽々引き寄せて正確にその箇所を狙い始めた。
「……ぁっ!あ!ああ!」
一度漏れてしまった声はもう止めようが無い。
じわじわと脊髄を駆け上がって来る嵐のような感触に意識が霞んだ。夢中で壁に立てた爪はとうに割れていて、指先に滲んだ血が黒く跡を引いた。
「……!」
一際激しい律動を受け、背を弓なりに反らせて叫ぶ。秘所がねじ込まれた物をより深く呑みこむように収縮して、己が身体の浅ましさにうめいた。
叩きつけられた看守の性器が蛇のように蠢いて、身体の奥に何かがどろりと流れ込んで来る。最奥にじわりと染み込んできたのは、内蔵を腐らせ心を汚染する煮えたぎった悪意だ。びくびくと全身を痙攣させ、燃えるような熱で浮かされた喉は、自分の物では無い声で鳴いた。
声にならない嘲笑を背後に感じ、
意識は唐突にそこで途切れた。