おかげさまで1周年
〜おしゃれアルバム物語1周年記念作品〜
猫メイドさんの憂鬱
特別編



2018年1月からおしゃれ泥棒のアルバム機能を利用して開始した
「猫メイドさんの憂鬱」でしたが、お陰様でシリーズ開始から丸一年が
経ちました!いつもありがとうございます。
これを記念しまして、今回は、これまでお話に登場した全キャラクター
総出演の「特別編」をお送り致します。



〜お嬢様の実家の大晦日〜

クリスマスが過ぎて、お嬢様が通う学園は冬休み入りしました。

猫メイドさんは、今日から2週間ほどお正月休暇を貰い、故郷へ帰って
しまいました。

お嬢様が学園から戻ると、猫メイドさんはもういません。

お魚のお姉さんも、実家に帰ってしまいました。

つい先日まで、クリスマスパーティーであんなに賑わっていたのが
嘘のように、お嬢様の家は静まり返っています。

猫メイドさんが実家に帰る前に、お部屋をお掃除してくれたので、
クリスマスパーティーで散らかっていたお嬢様の家は、
すっかり綺麗に片付いていました。

年末は、お嬢様も実家に帰ります。

お嬢様は、とりあえず必要なものだけかばんに詰めて、
実家に向かいました。

バス停からバスに乗って、約10分で実家です。


「ただいまあ」


と、お嬢様が言うと、奥から妹さんが出てきました。

妹さんは、雑巾を手にして、三角巾を被っています。


「大掃除してたの?じゃあお姉ちゃんも手伝うとしますかぁ」


お嬢様も助太刀して、大掃除をお手伝いすることになりました。

床のお掃除はルンバに任せて、普段あまりお掃除をしない換気扇や、
エアコンのフィルター、窓ガラスなどを、二人で手分けしてお掃除しました。

一通りお掃除が済むと、今度は引き出しやタンス、本棚のお片付けです。

ところが、お嬢様も妹さんも、引き出しから古いアルバムを発掘すると、
我を忘れてそれにすっかり見入ってしまいました。


―ピンポーン…


誰かが呼び鈴を鳴らすと、お嬢様も妹さんも、ハッと我に帰りました。

お母様が注文していた、おせち料理が届いたようです。

妹さんが言いました。


「お姉ちゃんはおせち料理とか作らないの?」

「とても無理だよ。ぜんぜんそんなレベルじゃないし」


本棚のお片づけも終わり、日の丸の国旗と門松を準備して、二人で
リビングで寛いでいると、やがてお母様がおしごとから帰ってきました。


「すっかり片付いたわね。お疲れさまぁ」


このあと三人は、毎年の恒例にしていることがありました。

それは、近所のお蕎麦屋さんに三人で出掛けて年越しそばをいただく
ことでした。

100%国産蕎麦粉を使用、ダシもこだわりの天然素材のみ使用を謳う
お蕎麦の専門店は、実家から歩いて10分です。

人気のお蕎麦屋さんなので、今年の大晦日も30分待ちでした。

待ち時間の間、暇なので、妹さんは携帯ゲーム機で遊んでいました。
お母様は、おしごとの事でずっと携帯電話でお話をしています。

お嬢様も、猫メイドさんやお魚のお姉さんに、大晦日は何をして
過ごしているのか、電話をかけていました。

猫メイドさんは、お嬢様の家で働いているほうがずっと楽だと、愚痴を
こぼしていました。

お魚のお姉さんは、昔のクラスメイトと久しぶりに会って、さっきまで
映画館で映画を見ていたようです。これから初詣に出掛けるようでした。

お嬢様は、お友達にも電話を掛けてみました。
すると、まるで別人のような酷い声でした。


「どうしたの?その声」


「インフルにかかっちゃた〜最悪の大晦日だよ〜ゲホゲホ」


お嬢様は、おだいじに、と言って、電話を切りました。

やがてお嬢様たちは、空席に案内されて、待望の年越し蕎麦を頂きます。


「これを食べると一年が終わった〜って気分になるよね」


お嬢様がそういうと、お母様はにっこりと頷きましたが、妹さんは
少々不満そうです。


「10分の食事のために30分も待つのって…何だかもったいない気がする」


そんな妹さんのつぶやきに対してお母様も、


「それもそうね…」


と言いました。

お蕎麦を頂いた後は、三人で初詣に向かうため、一旦実家に戻って
お着物に着替えます。

その間、来年からの年越し蕎麦はどうするか、ずっと三人で問答を
繰り広げていました。

慣れ親しんだ地元のお蕎麦屋さんに拘りたいお嬢様とお母様に対し、
ネットで注文すれば、待たずに自宅で美味しいお蕎麦が食べられると
主張する妹さんとで、なかなか意見の折り合いがつきませんでした。

やがて除夜の鐘が近所のお寺から聞こえてくると、もうそんな話は
どうでもよくなってしまいました。



〜魔女のお正月〜

年が明けて、お正月になりました。

もぬけの殻となったお嬢様の家では、今までずっと姿をくらましていた魔女が、
羽根を伸ばして寛いでいました。

姿を曝け出して、堂々とソファで寝転がれるのは、誰もいない今だけなのです。

お嬢様の家は、魔女にとって風水的に大変都合が良く、居心地が良い家
なのでした。

そしてこの日、不幸にも、お嬢様の家に招かれざる客が呼び寄せられて
しまいました。

魔女がソファーで寛いでいると、鍵がかかっているはずの玄関から、
何者かが侵入してきたのです。

それは何と、空き巣でした。


「チッ!アタイのお気に入りの御殿に勝手に入ってくるなんて…気に入らないね」


魔女は、ここぞとばかりに地縛霊を操り、空き巣の目の前に出現させました。

更に、物凄いラップ音を発生させ、インフルの呪文を唱えると、空き巣は腰を
抜かしてしまいました。
そして、這うように玄関へ逃げていき、結局、何も取らずにお嬢様の家を
飛び出して行きました。


「ははははは!こりゃあいい。はははは」


魔女はひさしぶりに憂さ晴らしができて、上機嫌でした。

ところが、お嬢様の家から不審者が血相変えて飛び出してきたのを、近所の人が
目撃してしまいました。

そのことで、警察からお嬢様の実家に電話がかかってきました。

お母様も、お嬢様も、びっくりしてしまいました。

まさか、お正月早々から警察のご厄介になるとは思ってもみなかったのです。

家族三人お正月モードから一転、おせち料理に舌鼓を打つどころではなくなって
しまいました。

一同、実家を飛び出し、お嬢様の家へ急行します。

お嬢様の家の前には、赤色灯を回転させたパトカーが一台停まっていて、
警官が二人いました。

お母様とお嬢様が、警察官の聴取に応じました。

警察によると、玄関の鍵のかけ忘れていたせいで、空き巣に入られたのでは
ないか、ということでした。

お嬢様は、絶対に鍵はかけたはずだと言い張りました。

しかし、玄関の鍵を壊された形跡はありませんでした。

お母様は、鍵をかけたと思い込んでいるだけでは?と、お嬢様に言いました。

お嬢様と妹さんは、家の中に入って、何か盗られているものがないか、
調べてみましたが、特にこれといって気がついた変化はありませんでした。

お嬢様は、犯人に心当たりがないかを警官に尋ねられました。

しかし、他に玄関の鍵を開けることが出来るのは、実家に帰省中の猫メイドさん
以外にいません。

念のためお嬢様は、里帰り中の猫メイドさんにも電話を掛けて尋ねてみました。

猫メイドさんが合鍵を落とした可能性もあるからです。


「玄関の合鍵かニャ?ちゃんと鞄の中にあるニャ」


どうやら、猫メイドさんが鍵を落としたわけでもなさそうです。

結局、特に盗まれたものもなく、コレといった被害もないことから、お嬢様の鍵の
かけ忘れではないか、という結論で、ひとまずこの一件は幕引きとなりました。

二人の警察官は、何かあったらすぐに連絡するよう言い残して、引き上げて
いきました。

お嬢様は、身に覚えのないウッカリのせいにされてしまったことに、不満を
隠せませんでした。

お嬢様たちは、実家に引き上げようにも、犯人がまだ捕まっていない上に、
いまひとつ空き巣の原因がハッキリしなかったので、家のことが心配で、
実家に帰れなくなってしまいました。

もしお嬢様の主張が本当だったとしたら、犯人はこの家の玄関の鍵を開ける
ことが出来る人ってことになるからでした。

三人は、これから数日間をどうしたらいいか、お嬢様の家で話し合いました。

家族会議です。

お母様は、玄関の部分をリニューアルすることを考えました。

オートロックにすれば、鍵のかけ忘れの心配も今後なくなる、というわけです。

その案にはお嬢様も大賛成でした。

しかし、問題はリニューアルするまでの間、この家の留守番をどうしようか、
ということでした。

リニューアルが完了するまでの間は、迂闊にこの家を留守に出来ません。

誰かが留守番していなくてはならないのです。

猫メイドさんは里帰り中ですし、お嬢様一人でお留守番させるのは心配です。

妹さんが、猫のお手伝いさんを呼ぼうと言い出しました。

お母様は、お正月早々から猫のお手伝いさんをおしごとに呼び出すのは
気が進みませんでしたが、他に良い方法が何も思いつきません。

やむを得ず猫のお手伝いさんに電話をかけて、呼び出してみることにしました。


「今夜からですか?大丈夫ですよ」

「せっかくのお正月なのにごめんね、急にお願いしちゃって」

「いえいえ、大丈夫です」


ということで、猫のお手伝いさんに快諾いただき、さっそく今夜から
猫のお手伝いさんに来ていただけることになりました。

妹さんは、今夜から猫のお手伝いさんと一緒に遊ぶ気満々でした。

お母様は、猫のお手伝いさんをお連れするため、今からお車でお迎えに行きます。

その間、お嬢様と妹さんは二人でお嬢様の家でお留守番することになりました。

久し振りに猫のお手伝いさんがやってくるのですから、何かお料理でも作って
お出迎えしようかとお嬢様は考えました。

しかし、そもそもお正月は実家に帰るつもりでいたので、お嬢様の家の冷蔵庫は
空っぽでした。

実家に戻ればおせち料理がほぼ手付かずのまま残っていますので、
コンビニで何か食べ物を買ってくるのも気が引けました。


「暇ね……」


仕方なくテレビをつけて、つまらない駅伝を二人でボーッと眺めていました。


「おなか空いたね…」


と、妹さんが言いました。

そういえば、まだおせちにロクに箸すらつけずに実家を飛び出してきたのでした。


「アタシ、実家に戻って食べ物持ってくる。念のため鍵かけて留守番してて」


お嬢様は、妹さんを残して、バスに乗って実家に戻りました。

実家の玄関には、日の丸の旗がユラユラと舞っていました。

お嬢様が実家に戻ると、これから箸をつけようとしていたおせちがそのまま
の状態でテーブルの上に置き去りにされたまま、時間が止まっていました。


「これ、どうやって持っていこう…」


お嬢様は、妹に電話して、何か良い方法がないか尋ねました。


「あのねー、お母様のチャリンコが庭にあるよ。乗れるようなら使わせて
もらえばどうかなあ」


庭の軒下を覗いてみると、お母様がスーパーへのお買い物用に最近購入した
新品のママチャリが置いてありました。しかも、電動アシストつきで、鍵はついた
ままです。

お嬢様は、チャリの荷台に、おせちの重箱を荷崩れしないように、しっかり括り
つけました。


「よっし。これでいけるぞ〜」


チャリの前籠には、お醤油と、栗きんとんと、お餅を積めるだけ積みました。

さらに、お菓子やおつまみを、レジ袋に詰め込みました。

郵便受けを確認すると、もう年賀状が届いていました。


「年賀状も持ってくか…」


お嬢様は、年賀状の束を、コートのポケットの中に入れました。

実家の戸締りを確認して、レッツゴーです。

電動アシストつきなので楽チンでした。10分弱でお嬢様のお家に到着です。

玄関を開けると、待ちかねていた妹さんが、奥の部屋から駆けてきました。


「もうお腹が空いて死にそうだよ」


などと言いながら、おせちの重箱を喜んで抱えて行きました。

やがてお嬢様たちのお腹もようやく少し落ち着き、コンロでお餅を焼きながら
年賀状を確認していると、お母様がようやく帰ってきました。

もちろん猫のお手伝いさんも一緒です。


「お嬢様、あけましておめでとうございます」


とりあえず挨拶もそこそこに、今はとにかくおせちです。

お母様は、朝からおせちを食べる暇なんてなかったので、ハラペコなのでした。


「お話は車の中で聞きました。お正月の朝から大変でしたね」


猫のお手伝いさんがそう言うと、やっとお食事に一区切りついたお嬢様が、
堰を切ったように喋り始めました。

今朝のこと、玄関の鍵のこと、おせちをここまで運んだ時のこと、誰かに聞いて
ほしい事が山のようにあったのでした。

そんなお嬢様の話を遮るように、妹さんがテレビを指差して大声で叫びました。

一斉に全員がテレビのほうを振り向きました。


「…犯人は、住所不定無職の…」


どうやら、今朝の空き巣の犯人が捕まってニュースになったようです。

犯人の顔写真と、逮捕の決め手になった防犯カメラの分析映像も流れました。

それを見て、妹さんは興奮を抑えられないようでした。


「お姉ちゃん、別荘の時のあの犯人だよ、ほら」


妹さんがそういうと、お嬢様もようやく思い出しました。

それは去年、みんなで別荘に出掛けて、妹さんが行方不明になったことです。

あの時の犯人のうちの一人が、今回の空き巣犯だったのでした。

思わずお母様も、おせちをつつく手が固まって、テレビに釘付けになって
いました。

そろそろ遅い時間になったので、ひとまずお母様とお嬢様は、実家に引き上げ
ることにしました。

外はとても冷え込んできていました。


「さむうい…。じゃあ、妹をよろしくね」


そう言ってお嬢様は、乗ってきた電動自転車で一足先に帰りました。

お母様は、空になったおせちの重箱を車に積んだ後、何やら猫のお手伝いさんと
話込んでいました。

例の別荘地で起きた事件のことで、耳に入れておきたい大事なお話が
あったのです。

今回、犯人が一人捕まりましたが、まだ捕まっていないもう一人誘拐犯が
いるので、気をつけるように、ということでした。

猫メイドさんが故郷から帰ってくるまでの間、しっかりよろしくとお願いして、
お母様はお車に乗りこみました。


「お休みなさいませ」


そういって、猫のお手伝いさんはお車を見送りました。

その日の夜、猫のお手伝いさんは、妹さんと一緒のお布団です。


「猫のお手伝いさんは小さい頃ってどんな子だったの?」

「小さい頃はどんな趣味だったの?」


妹さんの質問攻めは、なかなか終わりませんでした。

やっと妹さんが寝息をたてた頃には、時計の針が1時を回っていました。

用心のために、就寝前にもう一度戸締りを確認しようと、猫のお手伝いさんは
寝室を離れて玄関に向かいました。

玄関の扉の鍵はしっかりかかっていました。

サッシの鍵、裏口の鍵、全てかかっているのを確認して寝室に戻ろうとすると、
いつの間にかあの魔女が姿を現して、リビングのソファーに腰掛けていました。


「よう、アンタじゃないか。元気だったかい?」


突然声をかけられて、猫のお手伝いさんは心臓が口から飛び出しそうに
なるくらいビックリしました。


「なんだ…あの時の魔女さんでしたか。ビックリさせないでください」


猫のお手伝いさんは、お陰ですっかり目がさめてしまいましたので、リビングに
留まって、魔女の話を聞きました。


「それじゃあ、魔女さんがこの家からあの犯人を追い返したのですか!」


猫のお手伝いさんは、今回の事件と魔女が無関係じゃなかった事に驚きました。

更に驚いたことに、今頃その犯人は、インフルエンザにかかって苦しんでいる
頃だろうというのです。


「呆れた…。何も盗らずに逃げた人にそんなことまでしたんですか」


すっかり得意気になっている魔女は、お腹が空いたと言い出したので、ゆうべ
のお残りのおせち料理と、栗きんとんを出してあげました。


「この家には備蓄がぜんぜん無いので全部食べちゃわないでくださいね」


しかし、魔女は食欲旺盛で、心配になるくらいよく食べました。

猫のお手伝いさんは、妹さんの明日のお食事の準備をどうしようかと、キッチン
で考え込んでいると、いつの間にか魔女の姿が見えなくなっていました。


「ふぅ〜食った食った。ごっそーさんっ」


魔女の声が、猫のお手伝いさんの耳元で聞こえましたが、姿は見えません。

不思議なことに、魔女があんなに食べ散らかしたおせち料理も栗きんとんも、
元通りになっていました。



〜お嬢様のお家の三が日〜

妹さんが、ゆうべのお残りのおせち料理を朝食代わりにつつきながら、
猫のお手伝いさんと雑談していてると、お母様とお嬢様が、お車で実家から
山のように食べ物を積んで、やって来ました。

どうやら、実家にあったお歳暮の頂き物を全部持ってきたようです。

缶詰や、高級菓子の詰め合わせ、レトルト食品セット、調味料の詰め合わせ、
高級な干し柿や梅干、果物やお米まであります。

お客さんさえ来なければ、とりあえず一週間は食べ物に困ることはなさそうでした。

お嬢様と妹さんは、これからお母様と一緒に、恒例のお正月のあいさつ回りに
お出掛けする予定ですので、今日は一日、猫のお手伝いさんにお嬢様のお家
のお留守番をお任せすることになっていました。

お母様のお車をお見送りすると、猫のお手伝いさんは、念のため玄関に鍵をかけ、
キッチンに向かいました。

そして、お母様からの頂き物を賞味期限順に棚に並べて整理しました。


「そういえばスーパーはいつから営業しているのかなあ…」


猫のお手伝いさんは、お嬢様のお部屋にあるパソコンを借りて、インターネットに
つないでみました。


「もう営業しているスーパーもあるにはあるのね…。でもこのお家をお留守には
出来ないから、お買い出しは明日以降ですね」


猫のお手伝いさんは、お母様より仰せつかったリフォーム屋さんを、
インターネットで探してみました。

そして、中堅のリフォーム屋さんを、近所に一軒だけ見つけました。

しかし、そのリフォーム屋さんは、あさってまでお休みのようなので、とりあえず
お問い合わせメールアドレスに見積もりの依頼を送って、返信を待つことに
しました。

夜も更けて、猫のお手伝いさんがお歳暮の缶詰をおかずに夜食をとっていると、
お母様から電話がかかってきました。

リフォーム屋さんが見つかったかどうか、確認の電話のようです。

「はい。一応お見積りの依頼はしておきましたけど、数日後になると思います。
はい、はい、それではおやすみなさい」


翌日になり、猫のお手伝いさんがスーパーに買出しに出掛けたいというので、
今日はお嬢様と妹さんの二人で、お嬢様のお家のお留守番です。

猫のお手伝いさんが、今日はカレーを作ってご馳走してくれるようです。

妹さんとお嬢様は、甘口がいいか、それとも中辛がいいかで、ちょっとした論争を
繰り広げていると、やがてお嬢様のスマホに着信が入りました。

お嬢様のお友達から電話のようです。


「もうインフルエンザは大丈夫?」

お嬢様が尋ねると、もうだいぶ具合は良くなったようで、酷かった鼻声もすっかり
治っていました。


「ところで、お家の玄関を今度リニューアルするんだって?玄関がどうかしたの?」


お嬢様のお友達が尋ねてきました。


「どうしてそのこと知ってるの?」

「うちのおじさんの会社に見積依頼がきたって聞いたから、どうしたのかな
って思って」


どうやら、猫のお手伝いさんが見積もりの依頼をしたのは、お嬢様のお友達の
おじさんの会社だったようです。


「目一杯サービスするようにアタシから言っといたからね。見積りは明日メール
するらしいよ」

「ありがとう〜そのおじさんによろしくね」


そういって、お嬢様は電話を切りました。

やがて、猫のお手伝いさんがお買い物から戻ってくると、さっそくお嬢様は、
さっきの電話の件を猫のお手伝いさんに伝えました。

カレーに入れる具も揃い、三人でカレー作りを楽しんでいると、美味しそうな
スパイスの香りに引き寄せられるように、お嬢様のお家に来客です。

― ピンポーン

妹さんが玄関に駆けていくと、玄関前には、お土産の紙袋を提げた
お魚のお姉さんの姿が見えました。

たった今、実家から帰ってきたようです。


「いい匂い。今夜はカレー?」

「そうだよ」


お嬢様が奥からやってきて、ご一緒にお夕食はどうかと尋ねました。


「いいの?ありがとう」


まだ夕ご飯を済ませていなかったお魚のお姉さんは、お呼ばれすることに
なりました。

今夜の夕ご飯は質素ですが、ひさしぶりにお嬢様のお家は賑やかです。

夜遅くまでお喋りに花を咲かせたあと、お魚のお姉さんは、明日から市場で
バイトを再開するってことで、アパートに戻りました。

お嬢様と妹さんも、今日は二人で最終バスに乗って実家に戻ります。

猫のお手伝いさんは、お嬢様たちを玄関先で見送り、玄関に鍵をかけると、
何だかお嬢様の家が急に静かになってしまいました。

猫のお手伝いさんが一人で皿洗いをしていると、突然けたたましく電話が
鳴り響きました。

電話は猫メイドさんからでした。

お嬢様の家がどんな状態なのか心配になって、お嬢様の実家に電話をした
のですが、誰も電話に出なかったので、こちらに電話してきたようです。

猫のお手伝いさんは、これまでの経緯を猫メイドさんに説明して差し上げました。


「そうかニャ…よくわかったニャ。あさってには戻るから、それまでしっかり
よろしくニャ」


そういって、猫メイドさんは電話を切りました。

洗い物も片付き、そろそろシャワーを浴びて休もうと思ったその時、また
魔女が現れました。


「…こんどは何ですか?」


猫のお手伝いさんがそう尋ねると、魔女は言いました。


「外に誰かがいるね」

「誰かって、誰がいるんですか?」

「さあね。灯りを消してみれば、いずれわかるんじゃないかい」

「それって、空き巣かもしれないってことじゃありませんか!」


猫のお手伝いさんは、部屋の灯りを消し、もしもの場合に備えてトイレに篭り、
トイレ掃除用のブラシを握り締めて様子を見ることにしました。

灯りを消してからおよそ三十分。結局何事もなく、トイレから出ようとしたその時
でした。


「奴が入ってくるよ」


と、魔女が言いました。

確かに、玄関の鍵を開ける音が聞こえました。

何者かがお嬢様の家に侵入してきたのは間違いなさそうです。

猫のお手伝いさんは、ブラシを両手にギュッと握ったままトイレに篭って、
ガタガタと震えていました。


「だらしないね。しっかりしな!何のためにお嬢様に雇われてるんだい」


猫のお手伝いさんは、勇気を振り絞ってそうっとトイレの扉を開けると、
忍び足で玄関に向かいました。

幸い猫目なので、灯りが消えていても回りは良く見えました。

確かに魔女の言うとおり、誰かが家の中にいる気配がします。

猫のお手伝いさんは、忍び足で部屋を探し回ると、やがてお嬢様のお部屋
の前で、侵入者の後ろ姿を発見しました。

その侵入者は、暗くて周りがよく見えていないらしく、お部屋のドアノブの位置
を、しきりに手で探っている様子でした。

猫のお手伝いさんが侵入者のすぐ背後に近寄っても、まったく気がつく様子が
ありません。

猫のお手伝いさんは、手に持っているブラシで思いきり何度も叩きました。

侵入者は、頭を抱えて、


「イテッイテッ」


と、うめいています。

侵入者は逃走を試みますが、真っ暗で何も見えません。

結局、しゃがみこんで頭を抱えるしか出来ませんでした。

やがて魔女は、何やら呪文を唱えはじめました。


「イン・フル!」


侵入者は、インフルエンザに感染して、急に具合が悪くなってきました。

猫のお手伝いさんは、侵入者をお嬢様のお部屋に閉じ込めて、その間に
ガムテープと延長コードを用意し、侵入者の手足をグルグル巻きにすると、
110番に電話しました。


お嬢様のお家 〜その後〜

冬休みが終わり、今日から三学期です。

お嬢様は何時ものように、お友達と一緒に学園に登校しました。


「今日学校終わったらさ、ウチに来ない?猫のお手伝いさんが明日帰っちゃう
から、今夜みんなで軽く慰労会でもしようかなって思ってるの」

「大手柄で警察から感謝状受け取ったんだってね。昨日ニュース見てビックリし
たよ」


お嬢様の家では、おしごとの引継ぎが行われていました。

ゆうべ遅く、猫メイドさんが電車で故郷から帰ってきたので、明日からは、
猫のお手伝いさんに代わって、猫メイドさんがお嬢様のお世話をすることに
なるのです。


「本当にアイツが泥棒を捕まえるのに協力してくれたのかニャ?
全然信じられないニャ」

「ホントにホントですよ!根はいい魔女さんなんだと思います」

「そんなことあり得ないと思うニャ」


魔女の噂をしていたら、お嬢様が帰ってきました。

お嬢様は、帰って来るなり猫のお手伝いさんの慰労会をしようと言い出しました。

猫のお手伝いさんの慰労会なので、今日は猫のお手伝いさんに働いてもらう
訳にはいきません。

そこで、猫メイドさんに食材の買い出しに行ってもらい、お嬢様はお料理の準備
に入りました。


「お手伝いさんはテレビでも見て寛いでて」


お嬢様はそういいますが、猫のお手伝いさんはそわそわした様子です。


「何かやらせてくださいませんか?何だか落ち着かなくて…」


猫のお手伝いさんが苦笑いしながらお嬢様にそう言うと、お嬢様は少し
考えて、こう言いました。


「じゃあさ、せっかくの慰労会の主役だから、アタシの部屋で何かおしゃれな
服を選んで着てきてくれないかな。クローゼットの服で着れそうな服ならどれを
選んで着てもいいからさ」

「えっ本当にいいんですか?」


猫のお手伝いさんが、お嬢様のお部屋に籠って鼻歌を口ずさみながら、
服の試着を楽しんでいると、やがてお嬢様の家にお友だちがお手伝いに
やってきました。

お嬢様のお友だちもまざって、二人で慰労会の準備です。

やがて、猫メイドさんもお買い物から帰ってきました。


「おさかニャのお姉しゃんが上等なおさしみを見繕ってくれたニャ。これは
お寿司のネタにしないと勿体ないと思うんだニャ」


そういって、猫メイドさんはお買い物袋からおさしみと柚子酢を取り出しました。

更に、お魚のお姉さんのご好意で、ウニやイクラも少し入っていました。

どうやら今晩の献立はお寿司で決まりのようです。

ところが、お嬢様はお寿司を上手に握るのはまだちょっと自信がありません
でした。

猫メイドさんも、酢飯のレシピは知っていても、握ることは苦手でした。


「この手でお寿司を握るのは難しいんだニャ」


そういって、猫メイドさんは手を広げて、肉球を見せてくれました。


「じゃあ、見様見真似でよければ、アタシがやってみようか?」


普段からよくおにぎりを作っているというお嬢様のお友だちが、今回お寿司
を握るのに初挑戦です。

固めに炊きあがったご飯に、猫メイドさんが柚子酢をまぶし、お嬢様が団扇で
煽ってご飯を冷やすと、お友達がご飯を素早くかき混ぜていきました。

酢飯が出来上がると、お嬢様も、お友だちと一緒に、練習のつもりでお寿司を
握ってみました。


「二人ともなかなか様になってるニャ」


お寿司にはちょっとうるさい猫メイドさん。
お嬢様は、出来上がったばかりのお寿司を一貫試食してもらいました。


「うーん…初めて作ったにしては上出来じゃないかニャ」


猫メイドさんはチパチパと、ご飯粒のついた指をしゃぶりながら、
ちょっと気取った調子でそう言いました。


夕方になると、慰労会の準備はだいたい整ってきましたが、肝心の
猫のお手伝いさんが、なかなかお部屋から出て来ませんでした。


「猫メイドさん、こっちはもう大丈夫だから、お手伝いさんにこっち来るように
呼んできて」


猫メイドさんがお嬢様のお部屋を覗くと、お洋服が山のように散乱しています。

猫のお手伝いさんは、いまだにドレッサーと睨めっこしながら、服を
選んでいました。


「着る服がまだ決まらないのかニャ?もうすぐお食事の準備が整うニャ」

「可愛いお洋服を五着選んだんですけど、どれにしようか迷っちゃって…」


猫のお手伝いさんは、どうしても決められないというので、その五着の中から
猫メイドさんが一着選んであげました。

お嬢様とお友達は、お寿司を囲んで今か今かと主役の登場を待ちわびて
いました。


「何やってるんだろう。遅いね…」


しびれを切らして、猫メイドさんたちを呼びに行こうと、お嬢様が席を立とうと
したその時、お嬢様のお部屋のほうから、猫メイドさんがお手伝いさんを
急かす声が聞こえてきました。


「片付けはあとでいいから早く来るニャ!お嬢様たちがお待ちだニャ」


やっと主役がお嬢様のお部屋から出てきたと思ったら、今度は恥ずかし
いと言い始めて、猫のお手伝いさんはお嬢様のお部屋に引っ込んで
しまいました。

お嬢様とお友達は、そんな猫のお手伝いさんの姿を一目見ようと、お嬢様
のお部屋に押し掛けました。


「可愛い!すごく可愛いよ。ね、ね、猫メイドさん!」


そう言うお嬢様も、お友達も、笑いを堪えるのに必死です。


やっぱり着替えたいと言って聞かない猫のお手伝いさんを、三人がかりで
半ば無理やりお部屋から引っ張り出して、ようやく慰労会が始まりました。

少し冷めてしまったお茶で乾杯をし、四人でお寿司をつつきながら雑談して
いると、お嬢様の家に誰かがやって来ました。

―ピンポーン

お嬢様がインターホンに出ると、やって来たのは、バイトを終えて帰ってきた
お魚のお姉さんでした。


「猫のお手伝いさんが明日帰るって聞いたから、これを…」


お魚のお姉さんはそういって、猫のお手伝いさんへの手土産にと、畳みイワシを
お嬢様に渡しました。


「晩御飯はもうお済みですか?」


お嬢様がそう伺うと、お魚のお姉さんは、バイト帰りで晩御飯はまだとっていない
というので、せっかくなので、お嬢様とお友達が握ったお寿司を、お魚のお姉さん
にも召し上がってもらうことにしました。


「どうかなあ?」

「うん、美味しいよ!回転寿司とかよりも全然いいんじゃないかな」


お魚のお姉さんにも好評で、お皿の中に並べたお寿司は全て完食。
お嬢様もお友達も、ご機嫌でした。


―翌朝。

外は乾燥した快晴で、とても冷え込んでいました。


「おおお寒いぃぃ」


マフラーに手袋姿のお嬢様は、玄関前で猫メイドさんに見送られながら、
お友達と学園に出掛けていきました。

お嬢様の後ろ姿が見えなくなると、入れ替わりでお母様のお迎えが
お嬢様の家にやってきました。

猫のお手伝いさんは、お母様のお車で帰ります。


「またピンチヒッターを頼むことがあると思うニャ。その時はよろしくニャ」

「はいっこちらこそよろしくです」

猫メイドさんに見送られながら、猫のお手伝いさんを乗せたお母様のお車は
行ってしまいました。


「さて、おしごとおしごとだニャ」


そういって、猫メイドさんはお嬢様の家に引き上げると、さっそくリフォーム屋さん
に電話をしました。


「それじゃあドアのリフォームにとりかかっていただけるのは再来週になるのか
ニャ? …わかったニャ」


どうやらスケジュールがいっぱいで、再来週にならないとリフォームしてもらえ
ないようです。

しかし、せっかくお嬢様のお友だちの誼で料金をサービスしてもらえることに
なったので、他の業者に頼むわけにもいきませんでした。


猫メイドさんは受話器を下して、溜息をつきながらソファーに腰を下ろすと、
いつの間にか隣に、あの魔女が座っていました。


「いたのかニャ」


特に会話もなく、黙り込んでソファにふんぞり返っている魔女に、猫メイドさん
は言いました。


「話は聞いたニャ。憂鬱な魔女だと思ってたけど本当はいい魔女なんだニャ」


すると魔女は、


「何の話だい。アタイは何も知らないからね」


といって、とぼけました。


「いつまでこの家に居座るつもりなんだニャ?」

「アタイはここが気に入ってんだ。地縛霊が成仏しない限り動く気は無いね」

「それじゃあお寺さんにでも電話して来てもらおうかニャ」

「勝手にしな」


魔女は再び姿を消しました。

どうやら、猫メイドさんとは馬が合わないようです。


猫メイドさんがリビングのカーテンを開けると、太陽の日差しが勢いよく
入ってきました。


「お掃除が終わったらお布団干そうかニャ」


猫メイドさんの新年初日のおしごとが始まりました。


おわり