〜おしゃれアルバム物語〜
猫メイドさんの憂鬱
番外編 2

お魚のお姉さんの夏休みの巻

文/扉画像:おぼろ
おしゃ画像作成:さとみさま

戻る



土用の丑の日を過ぎると、それまで目が回る忙しさだった魚市場も、
少し暇になってまいりました。

魚市場でバイトしていたお魚のお姉さんは、このタイミングに少しお休み
をいただくことにしました。

大学も夏休み期間ですので、暫く実家に帰って、ゆっくりしようというのです。

大きなキャリーケースを牽きながら、駅で電車を待っていると、そこには
見慣れた猫耳フードの後姿がありました。





「あら、猫メイドさんじゃない!こんなところで奇遇ね。どこかにおでかけ?」





「ああ、おしゃかにゃのお姉しゃん! お嬢様が夏休みに入ったからお暇を頂いた
んだニャ。今から実家に帰るところだニャ」

「あら、それじゃアタシと一緒だね」

「おしゃかにゃのお姉しゃんも実家に帰るのかニャ?」

「アタシもバイト先から休暇を貰って実家に帰るところ。大学も夏休みだから、
ここにいる理由もないしね」


世間はお盆休みです。

早い時間だったこともあって、車内は空席が目立ちました。





たまたま乗車する電車も、帰る方向も、偶然同じだった二人は、
電車の中で、しばし世間話をしながら、流れる車窓を楽しみました。


「次の駅で降りなきゃ。今日は猫メイドさんとゆっくりお喋り出来て楽しかったぁ!
また向こうに戻った時はよろしくね」

「こちらこそよろしくニャ」

「じゃあ、気をつけて帰ってね」





一足早く下車したお魚のお姉さんは、駅のホームで猫メイドさんに手を振って
見送りました。

猫メイドさんも、車内から手をニギニギして応えました。


「さてっと…」


最寄の駅から、お魚のお姉さんの家までおよそ3キロ。

バスに乗って約10分程揺られると、見覚えのある懐かしい風景の場所に
着きました。


「ただいまあ!あーつかれた…」


お魚のお姉さんの実家は、昔ながらの縁側がある古い家です。





大きい荷物を座敷に上げて、扇風機の風にあたっていると、すぐに冷えた
スイカが出てきました。

スイカにかぶりつきながら、しばらく両親と世間話をしたあと、自分の部屋に
篭って、しばしお昼寝です。


ちょうどその頃、お嬢様の家には、妹さんが来ていました。

猫メイドさんの代役で来ていた猫のお手伝いさんとお喋りついでに、
夏休みの宿題を教えてもらおうというわけです。

しかし、つまらない宿題がそう長続きするはずもなく、
一時間もすると、妹さんは大きなあくびを始めました。


「お嬢様、ちょっとスーパーにお買い物に行ってまいります」


そう言って、猫のお手伝いさんがスーパーに出掛けようとすると、
すぐさま妹さんはシャーペンを放り出して、一緒にお買い物に行きたいと
言い出しました。





猫のお手伝いさんたちがお買い物に出掛けている間、お嬢様は
珍しくキッチンに立ちました。

お買い物から帰ってきた妹さんたちをびっくりさせようという魂胆です。





「猫メイドさんと何度も一緒にお料理作ったんだから、簡単なお料理なら
アタシ一人だって…」


しかし、冷蔵庫を覗くと、お料理に使えそうな材料がありませんでした。


「お手伝いさんが買出しから帰ってこないと、お料理どころじゃないわね」


仕方がないので、買い置きしてあるカルピスで水割りでも作ろうとした時、
お嬢様は閃きました。


「そうだ!カキ氷作ろう!どっかにカキ氷機があったはず」


お嬢様は、キッチンの棚を片っ端から捜してみましたが、カキ氷機が
見つかりませんでした。


「猫メイドさん、何処に仕舞ったんだろう…電話して聞いてみようかな」


キッチンのお片付けは、ふだんは殆ど猫メイドさん任せですので、
カキ氷機をどこに片付けたかをお嬢様が知る由もありませんでした。

お嬢様が、必死にカキ氷機を探し回っている姿を、遠巻きに眺めて
ニヤついているのは、自縛霊さんです。

ところが、それもだんだん飽きてきました。

「やれやれ、すぐ後ろの棚にあるのに…。世話の焼けるお嬢様だねえ!
見ちゃいられないよ」





「ゴトンッ!」


自縛霊さんがラップ音を発すると、お嬢様はビックリして棚に頭をぶつけ
ました。


「イタタ!何の音?」


お嬢様が振り返ると、そこにカキ氷機が置いてあるのを見つけました。


「あ、あった!こんなところに置いてあったのかぁ…」


お嬢様が、カキ氷機の入った箱をゴソゴソやっているうちに、妹さんたちが
お買い物から帰ってきました。


「ただいまあ!あ〜すずし〜」


妹さんは、さっそくクーラーの前を陣取って、微動だにしなくなって
しまいました。

猫のお手伝いさんは、スーパーで買ってきたものを冷蔵庫に詰めながら、
お嬢様に尋ねました。


「お嬢様、カキ氷をお作りになるんですか?」

「うん」


すると、猫のお手伝いさんが、ゴソゴソとお買い物袋から、何かを取り出し
ました。


「これなんてシロップにどうでしょうか? わたくしは太るからって反対した
のですが…」


猫のお手伝いさんが取り出したのは、カルピスのマンゴー味でした。


「あ、マンゴー味だ!それ一回飲んでみたかったやつ」

「あと二本しかなかったから買ってもらゃった…えへへ」


クーラーの前で妹さんが苦笑いしながら言いました。





冷凍庫に常備してあった氷を取り出し、カキ氷機の中に投入し、
出来上がったフワフワのカキ氷にマンゴー味のカルピスを、シロップ代わり
にかけて、出来上がりです。

果たしてお味は?


「まあフツーにマンゴー味だね…」

「うん」

「ちょっと牛乳も混ぜてみようか」

「ええっ?」

「だってさ、アイスに練乳入ったのとか、フツーに売ってるじゃん。
牛乳だって一緒でしょ」


ギョッとして顔をしかめる妹さんをよそに、お嬢様はカキ氷の上から
牛乳をかけて、カルピスとよく混ざるようにシャキシャキとかき混ぜました。


「…ねえ、どんな味になるの?」

「……う〜ん…意外と相性いいかも…」

「ホントに??」


少し疑いながら、妹さんもカキ氷に少しだけ牛乳をかけて、シャキシャキ
かき混ぜました。


「…うーん…味が変わったかどうかよくわかんないけど…」

「もっとたくさん牛乳をかけないからだよ」


お嬢様が牛乳パックを持ち上げて、妹さんのカキ氷に掛けようと
しましたが、妹さんは拒否しました。

そんなお嬢様たちのじゃれ合いを見ていたお手伝いさんが言いました。


「そんなに冷たいものをたくさん召し上がらないでくださいね。
お腹壊したら大変ですから」


お嬢様は言いました。


「まるでお母様みたいなこと言うのね」

「そのお母様の言いつけですよ。ところでお嬢様、お友だちと
花火大会に行かれるんじゃなかったのですか?」

「ああっやばっ! 忘れてた!浴衣浴衣!」

「お姉ちゃん、アタシも連れてって!」


日も暮れて、花火大会が始まった頃、お魚のお姉さんは、
実家の勉強部屋で中学時代にクラスメイトだったお友達と、久し振りに
長電話をしていました。


「へええ、もう就職先が内定したの? で、どこの会社?」


どうやら、そのお友だちは、偶然にもお嬢様のお母様が働いている会社に
就職が内定したようでした。


「アタシ、その会社の専務さんの娘さんのこと、よく知ってるよ。
ご近所だし、バイト先じゃお得意さんだから」


その会社の専務さんの娘さんと、お魚のお姉さんが知合いってことに、
そのお友達はかなりビックリした様子でした。


「おっけー!また向こうに行った時にでも、よろしく言っといて
あげるね。じゃあまたね」


そう言って電話を切ると、お魚のお姉さんは、大きく伸びをして、
再びお勉強をはじめました。


「アタシも頑張ってレポート仕上げなくっちゃ」


外からは、早くもスズムシが鳴いているのが聞こえます。

虫の鳴き声に耳を澄ましているうちに、お魚のお姉さんは
いつの間にか睡魔に襲われ、寝息を立てていました。


…ピロリン…


お魚のお姉さんは、スマホの着信音で目を覚ましました。


「いっけない、寝ちゃった…誰からだろ…

あら、お嬢様からじゃない。めずらしいな…」


お嬢様からのメールは、ごく短文でした。


『今日も凄く暑かったのでかき氷を作って妹と食べました』


そのメールには、添付ファイルがありました。

ファイルを開くと、お嬢様と妹さんがかき氷をほうばってる
写真が添付されていました。





「あはっ、かわいい♪ そういえば、今日は花火大会だったはずよね。
お嬢様たちも行ったのかしら…?」


お魚のお姉さんは、お嬢様たちと一緒に夜空の花火を眺める自分の姿を
想像しました。





「来年はお嬢様や猫メイドさんたちと、花火大会に行きたいなぁ…

たまには、綺麗な浴衣とか着てさ…

…でも就職したら、もうそれどころじゃなくなるんだろうな…」


お魚のお姉さんは、そんなことをつい考えてしまい、再びお勉強に精を出す
気力も出なくなってしまいました。

座布団を二つに折って枕代わりにし、ゴロンと寝転がって、ボーッと
しばらく天井を眺めるのでした。


おわり


戻る