
〜おしゃれアルバム物語〜
猫メイドさんの憂鬱 番外編
デジャヴの夏休みの巻
お題提供:アリスさん
文章:おぼろ
おしゃ画像作成:さとみさま
戻る

明日からおしゃれ学園は夏休みに入ります。
お嬢様は、学園から戻ってくるなり汗びっしょり濡れた制服を脱ぎ捨てて、
勉強部屋のクーラーの前に突っ立ち、微動だにしなくなってしまいました。
「お嬢様、帰ってたのかニャ?クーラーの風に直接あたるのはよくないニャ」
「ごめん今日は勘弁して!もう暑くて死にそうだし…」
「仕方のないお嬢様だニャ…シャワーでも浴びてサッパリしてきてはどうかニャ?」
「そうする〜」
何とかお嬢様をクーラーの前から引き離すことに成功した猫メイドさんは、
お嬢様が脱ぎ捨てた制服を拾い上げ、お洗濯を始めました。
お風呂場から出てきたお嬢様は、冷蔵庫から麦茶を取り出して飲みながら
クーラーの前で寛いでいました。

すると、向こうで洗濯機を回している猫メイドさんが、何か叫んでいるのが
聞こえました。
「お嬢様、ちょっと買い物出かけてくるニャ!留守番頼んでいいかニャ」
「いいよ〜」
猫メイドさんは、今夜の夜食を買いに、近所の魚市場に向かいました。
外は急に涼しい風が吹き始め、上空では入道雲が迫ってきていて、
ゴロゴロ鳴り始めていました。
「一雨来そうだニャ…急ぐニャ」
今日は土用の丑の日です。
猫メイドさんが市場に顔を出すと、お魚のお姉さんが忙しそうに
ウナギを売り捌いていました。

「注文したウニャギの蒲焼を取りに来たニャ」
「ああ、猫メイドさん丁度いいところに来た!ちょっとコッチ来て!」
お魚のお姉さんは、猫メイドさんを市場の裏口に呼ぶと、仕入れたばかりと思われる
発泡スチロールの箱の中身を見せました。

「これ、養殖ナマズの切り身なんだけど、この客足だと売れ残りそうで困ってるの。
蒲焼にしてみたのがあるんだけど、ちょっと試食してみてくれない?」
「それっておいしいのかニャ?」
「食べてみればわかるから…」
お魚のお姉さんに促されて、猫メイドさんはナマズの蒲焼を少し試食してみました。
「…!まるでウニャギの蒲焼みたいな味だニャ」
「でしょ!安くしとくからコッチに変更してみない?今年のウナギは例年よりも高いわよ」
「いくらにまけてくれるニャ?」
お魚のお姉さんは、そっと猫メイドさんに耳打ちしました。

「コッチのほう買うニャ!ついでにもう二人ぶん追加で買うニャ」
「ありがとう猫メイドさん!」
猫メイドさんはすぐさま近くの電話ボックスからお嬢様に電話しました。
今夜は実家にいる妹さんもお食事に呼んでほしいとお嬢様にお願いしたのでした。
激しい夕立ちも嘘のように上がり、今夜はお嬢様の妹さんも一緒にナマズの蒲焼で
精をつけてもらいます。
「不思議…。ホントにウナギの蒲焼みたいだね。言われなきゃわかんないや」
「おかげで予算がかなり浮いたんだニャ♪」
「ねえ猫メイドさん、明日から夏休みだし、妹とちょっとプールに出掛けてきても
いいかな」
「それは名案だニャ!お母様には言っておくニャ」
「うん、じゃあよろしくね」
お嬢様と妹さんが早目に寝静まった頃、お嬢様の家の玄関先に、一台の車が
やってきました。
会社からの帰りに立ち寄った、お嬢様のお母様のお車です。

「チンしたからちょっと食べてみてほしいニャ」
猫メイドさんは、お母様に、例の蒲焼を勧めました。
「あら本当…。ウナギの蒲焼とたいして味が変わらないのね。
最近だいぶお買い物が上手になってきたんじゃない?感心だわ」
「そんなことないニャ…♪」
照れる猫メイドさんに、お母様は言いました。
娘が夏休みの間、おしごとが暇になるから、しばらく帰郷してゆっくり休んで
きてはどうかしら」
「そうさせてもらえると有難いニャ。でも、その間の代役はどうしようかニャ?」
お母様は、少し考えてから言いました。
「そうねぇ…じゃあ夏休みの間だけ、こないだおしごとに来ていただいた
猫メイドさんに2〜3日に1回くらいのペースでお手伝いに来ていただこうかしら」
「かしこまったニャ。じゃあ今すぐにでも連絡しておくニャ」
翌日、お嬢様と妹さんは、電車に乗って近所の遊園地にやってきました。
ところが、夏休み初日とあって、開園前から長蛇の列が出来ていました。

「なにこれ!すごい行列…みんな水着持ってるよ!ねえどうする?」
「やめとこう…」
妹さんは即答でした。
お嬢様は駅に引き返し、猫メイドさんに電話しました。
「お嬢様、ちょうどよかったニャ!さっきお友達から電話があったばかりだニャ」
お嬢様がスマホを確認すると、いつの間にかメールが一件届いていました。
確認すると、お嬢様のお友達から、海水浴へのお誘いです。
お嬢様はすぐさま行くと伝え、お友達と駅で待ち合わせていると、やってきた
電車の中からお友達が手を振っていました。
「遊園地のプールに行ってたの?ものすごく混んでたでしょう!」
世間知らずのお嬢様は、さっそくお友達に突っ込まれてしまいました。
お友達が連れて行ってくれたのは、少し外れのほうにある鄙びた海水浴場でした。
人気はまばらで、ここなら、のびのびと寛げそうです。
お嬢様たちがビーチバレーで楽しんでいると、何やら男の人たちが数人
近寄ってきました。
「ねえねえ、一緒に遊ばない?」
世間知らずのお嬢様たちは、男の人たちと疑いもなく戯れました。

「キャッ♪キャッ♪」
30分ほど遊んでいると、ちょっと疲れてきました。
「ちょっと疲れたから休んでいい?」
お嬢様が、一軒だけ営業している浜茶屋に視線を移すと、すかさず男の人が
言いました。
「あそこでちょっと休もうか」

お嬢様たちは、男の人たちから、かき氷や焼きそばをおごってもらいました。
「ちょっとおトイレ行ってきまぁす」
お嬢様がおトイレから出てくると、浜辺の側道に、見慣れた赤い車が
停まっているのが見えました。
その車の横には、お母様らしき人がサングラスして、腕組みをして
立っています。
お嬢様は、浜茶屋でかき氷をおごってもらっている妹の肩をツンツンと
突っつきました。
「なあに?お姉ちゃん」
お嬢様は、側道に止まっている赤い車を指差すと、妹さんはビックリした顔
をしました。

「どうしたんですか?」
お嬢様がそっとお友達に耳打ちすると、どうやらお友達も非常事態に
気が付いてくれたようです。
「あのう…私たちこれで…」

「ええっ!もう帰っちゃうの?」
男の人たちは、奢り損に納得のいかない様子でしたが、お嬢様は丁寧に
お礼を言って頭を下げて、その場でバイバイしました。
シャワーを浴びて、簡易更衣室で着替え、お母様の車に乗り込もうとすると、
なんとそこには、以前、お世話になった猫のお手伝いさんがいました。

「お久しぶりです、お嬢様」
「えっ!どーいうこと?」
「また一カ月間、代理でお嬢様のお世話をさせていただくことになりました。
宜しくお願いします」
「ああ、そうなんだ。こちらこそよろしくね」
一方、車のハンドルを握るお母様は、いつもになく低気圧でした。
「どーいうことって聞きたいのはコッチのほうよ!猫メイドさんが電話で
連絡してくれなかったら、危うく通り過ぎるところだったわ」
どうやらお母様は、お嬢様たちがプールではなく、お友達と海水浴に出掛けた
かもしれないことを、猫メイドさんからの電話で知ったようでした。
そこへ、たまたま代わりの猫のお手伝いさんを送迎していたお母様の車が
通りかかった、ということのようです。
「それから、あなたたち、頼むからあんなはしたない真似しないでちょうだい」
「はあい…」
お嬢様たちは、お母様に怒られてしまいました。
「うちの娘たちって、ちょっと目を離すとすぐこれだから、これから一カ月間
しっかり見張っててね」
「あ、ハイ、わかりました」
家に着くまでの間、車中は何となく重苦しい雰囲気で、みんな黙り込んだまま
時間が過ぎていきした。
「これから大変ね。頑張って」

お手伝いさんの横に座っていたお友達が、小さな声で耳打ちすると、
お手伝いさんは苦笑いしてウインクしました。
途中でお友達を車から下ろし、お嬢様の家に到着したのはお昼過ぎでした。
「ずいぶんお早いお着きだニャ…」
実家に帰省する支度をしていた猫メイドさんは、慌てて玄関に出ていき、
お嬢様を出迎えました。
妹さんとお母様は、猫のお手伝いさんとお嬢様を車から降ろすと、
そのまま実家のほうへと帰ってしまいました。
「お嬢様、今すぐお風呂沸かすから待っててニャ」
お嬢様は何も返事をせずお部屋に入ると、猫メイドさんは、気になって尋ねました。
「…何かいつもとお嬢様の様子が違うみたいだニャ。何かあったのかニャ?」
明日から猫メイドさんの代役として働く猫のお手伝いさんが、海水浴場で見た
光景を猫メイドさんに聞かせて差し上げました。
「にゃるほどニャ…まあ心配ないニャ。お嬢様の事、宜しく頼むニャ」
---ピンポーン
夜になり、ひさしぶりに3人で夕飯をとっていると、誰かがやって来ました。
「どなたかニャ?」
猫メイドさんが玄関から覗くと、そこにはお魚のお姉さんがいました。

「あら、いい匂いね。お夕飯?じゃあちょうどよかった!これ、
少し売れ残っちゃったから食べてくれないかな」
お魚のお姉さんが持ってきてくれたのは、ゆうべ食べたナマズの蒲焼きでした。
「有難くいただくニャ!いつも済まないニャ」
思わぬご馳走が手に入って、猫メイドさんはご満悦です。
「ちょうど一人3切れづつありますね」
猫のお手伝いさんが、蒲焼を3切れづつ載せたどんぶりを配膳していると、
お嬢様が言いました。
「アタシのぶんは猫メイドさんにあげる。猫メイドさん蒲焼きが大好きだもんね」
「お嬢様、そんなことされたら悪いニャ」
「べつにアタシはいいから」
「そんな困るニャ!」
「…猫メイドさんヨダレ…」

俄かに始まってしまった押し問答の最中、猫メイドさんの口からヨダレが
したたり落ちる様子をお嬢様たちに見られてしまい、猫メイドさんは慌てて
ヨダレを拭きながら、顔を真っ赤にして言葉を失ってしまいました。
「……。じ、じゃあ遠慮なく2人分いただくニャ…」
「あはははは」
「よかった…お嬢様が笑ってる…」
明日から再びここで働く猫のお手伝いさんは、お嬢様の笑顔を見て
不安が吹き飛んだようです。
「そういえば、アタシが初めてここに働きに来た日も、似たようなことが
ありましたよね」
「言われてみればそうだニャ」
「ああ、思い出した。あの日はお魚のお姉さんがイワシを持ってきてくれた
んだよね。うん、これはきっとデジャブだわ」
「デジャブかニャ」
結局これはデジャブに違いないという結論に落ち着き、楽しい夜は
更けていきました。
おわり
戻る