元夫

  五年前、義妹から、元夫が亡くなって今火葬場に来ていると連絡があり、次男とともに火葬場に着くと
 仕事中だったようでまもなく帰った。
 時折四男の義兄とともに、おそらく元夫に頼まれて病院に見舞いに行ってくれていた。
 うちにも何度か電話があり、頼みにくいのか電話に出ると電話口の私を無視して次男の名を呼ぶ。
 そして二人で見舞いに行くことになる。
   私がデパートの派遣店員をしていた頃、「俺は今腕を切った、自殺する」と職場に電話してきたことがあったが
、妹にも同時に同じ電話をしたらしく、家に着いた時一生懸命なだめてくれていた。腕を見ても何も傷はないのに、優しい。
 私はこういうことに慣れてしまっていた。
 「今度はこれか」と思ったが義妹も役付きで仕事中。わたしは一人で一区画まかされていたので会社に迷惑をかけてしまった。 
 何があっても私は何も言わなかった。言っても無駄なのがわかっていたから。

  元夫は高校までスポーツ万能なので、日大に推薦で入学できると考えていたようだ。
 ところが、義父は下町っ子昔かたぎで、経済的には問題ないのに十人の兄弟たち一人も大学に行かせてない。
 いくら推薦でも駄目だと言われ、それ以来のしこりがあったようだ。体操の教師になりたかったと聞いたことが一度だけある。
 病院で「薬をごみ箱に捨てるので困っている」って言われたよと言っても「いいんだ」と言う。
 自分でいつも飲んでいた薬を薬局で買うというので、それはだめでしょと言っても聞くはずもない。

  火葬場で、とうとうお別れになる時がきたので、 お棺の中を覗いてみるとなんと、口を開けて笑っていた!
 次の日、義妹から「ああいう生き方をした人だから、共同墓地に入れるので」と丁寧に連絡してくれたが、次男に言うと

 「一応、俺の父親だから、葬式もやるし、お墓も作る」と言うので位牌がうちににあるわけです。
  今年正月には、まだお骨は火葬場から預かって黒い袋に入ったままだったが、今年こそは都立霊園の一時預かりにと
 次男と話していた。受け付けは六月からと思っていたがコロナウイルスのこともあるし、
 早めに三月三日に電話するとびっくり!!次の日預けることが叶った。
  一時預かりと言っても広いスペースの壁側には、タイル細工のデザインが宇宙空間のような雰囲気。
 その中が棚になっていて収めるようになっている。一年ごとに更新できるからその間に
 次男が責任を持って納骨堂を決めることを約束した。
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