蜘蛛 と 蛙
    蜘蛛

   何気なく見上げた先に、小さな蜘蛛。
  なんと、先祖の繰り出し位牌の開いた扉に、張り付いてじっとしている。
  扉のほとんど真ん中「ちょっと、頼むよ」
   息子は椅子に乗って、これもまたしばらく動かず見つめている。
  小声で「いとさんだ」「えっ」
 「いとさんだよ」と、位牌を見るよう促す。
 「徳相妙寿法尼」の改名。四月が月命日なので、繰り出し位牌の一番前にしてあった。
  そうか、「蜘蛛の糸」いとさんは、こんな小さな蜘蛛になって存在を見せてくれたのだろうか。
  彼女のことを語ってくれる人は、もう誰もいないだろう。
  私だって逢ったこと、有るはづもない。
  懐かしく思ってくれる人が居ないというのも寂しいことだろうと思う。
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