人生ゲーム
夫は簡単にあきらめる人ではなかった。
恐ろしいほどの執念で、逆襲が始まった。暴言とか暴力などは決してしない代わりに驚くほどの知能犯。
なんでこんな人と縁が出来てしまったんだろうと、当時からずっと悩んでいた。
長男が生後七か月で、離乳食が始まったばかりの時、紙切れ一枚渡され「予約してあるから」
理由も何もわからないまま、地図の場所に行くと、ビルの四階大広間。いきなり研修が始まった。
解剖学・生理学の若い先生と、技術を教える白髪の先生。治療院を経営している現役の先生方だった。
生徒は私と同じ年の人が一人だけ、三ヶ月間朝から夕方まで勉強。
それが終わると社員寮に泊まりこみの実地訓練。そのまま仕事に入ってしまった。
十年、二十年働いている先輩たちが多く、三十年の人も皆優しくしてくれたし、社長が毎日見回りをしていて、
迷惑なお客さんを上手くさばいてくれる。子育ての心配がなければ、働きやすい職場だった。
「子供は俺がみるから」24歳になったばかりの私は、言葉を素直に受け取って、ちゃんと見てくれるものと信じていた。
後々に自ら白状していたが「結婚したら妻を働かせ自分は楽をして生きるのが夢だったんだ」
だから子供はいらないと言っていたのだろう。
私の方は結婚した以上、一時でも早く母に孫を抱かせてあげたい、その一心だった。
戻る
広告