次男

  次男は意志がはっきりしている。スマホ・パソコンに熱中している時は「今忙しい」と見向きもしないが、
 「おやつ、あとにする?」と聞くと「ンッ?」すぐ振り向く。決して後回しにしない。
  飲み食いに関しては忙しくても放っておけない重要事項らしい。
  過去世で、戦争とか食糧危機に耐えて生きてきた子なのかな、なんて思ったりする。
 街を歩いていて販促で配られた物をもらうことも多い。新米二キロ抱えてきたこともある。
 それでいて、食べ物を前にしても先に食べるようなことはなくじっと待つ。「マテ」と言ってしつけたわけでもないのに。

  2〜3歳の頃、知らない人から「僕っ」と声をかけられることが多かったが即座に「ぼくじゃない!」と言って怒った。
「なんで怒るの?」と聞くと「なんで男だと『ぼく』なんだよ」「名前知らないんだからしょうがないでしょ」と言うと、
 「女の子には『お嬢ちゃんっ』っていうのに。だったら女の子には『私』っていえばいいんだよ」一応筋は通っているけど。
 その都度対応に困った。
  小学一年生の時は、運動会で負けた後よっぽど悔しかったのか、
 廊下で素っ裸になって「お尻を出した子一等賞」と歌いながら学校中の廊下を行進したと担任の先生が笑っていた。
 他の子たちも面白がって後ろにつながったという。
  お遊戯で使った三角帽子が気に入って、授業中も外せと言われてもまったく気にしないと言う。
 仕事で運動会も見てやれなかったけど、いつも担任の先生のおかげで見ていたように感じている。
  「宿題は?」と聞くといつも「ない!」と大きいはっきりした声で言うので、
 私も単純に、公立なのに珍しい、自主性を尊重しているのかと「珍しい学校ですね。宿題出さないんですね」
 と先生に言うと目を丸くして「いや、ありますよ、やってこないだけです」
 普段から授業中もふざけてばかりいたらしいので、高校は入れてくれるところに入学できればいいかと思っていたが、
 本屋で「個性を尊重する」という学校を見つけ、見せると今まで見たこともない凄い勢いで勉強を始めた。
 「滑り止めは要らない、これ一本でいく」
 英単語集を自ら買ってきて「今日はここまで覚えた」と毎日私に報告する。
  入試の日「これ持ってく?」とお正月の破魔矢をカバンにさすと「うん!」そのまま意気揚々と出かけた。
 合格した時は、中学の校長先生もびっくりで、担任の先生は「学校中大騒ぎです」 

  ところが次男は一年もしないうちに辞めることになった。本人は決して悪くない。クラスメイト二人の喧嘩が始まり
 「危ない」と判断して級長として当たり前なことをしただけ。担任を呼びに行ったら「ちょっと待って」と言い、
 なかなか来てくれないうちにイケメンな子の鼻が折れてしまったという。
  「お宅の息子さんが職員室で騒いでいるんですけど」という電話があり「本人に代わります」
 本人から消沈した様子で事情を聴き、こんないい加減な学校では三年間預けられない。愕然とした。
、担任の手がもし外せないならほかの先生でも校長でも率先して教室に飛んでいくべきだろう。本来なら学校の責任。
  あんなに張り切って頑張って入ったのに可哀そうすぎる。「やめたければ辞めてもいいよ」
 一応次男の選択肢も考えてそのように言ったが、その日限りでやめてしまった。
 歴史のある立派な学校の割にお粗末な対応にがっかりだった。他の学校を受けるよう勧めたが、当時は友達を失ったことが
 一番ショックだったようだ。
  中退となると世間は事情も聞かず本人に冷たい。何とか就職しようと履歴書を山ほど書いていたが、
 そのうちに書くこともしなくなった。このままでは就職も結婚相手も出来なくなってしまうと心配したが
 コロナが終結したらテレワーク・パソコンで頑張るつもりでいるようだ。
  友人がくれた十五年使用のウォークマンもパソコンとの併用で使えるように直したし、
 このパソコンの扱いも教えてもらって書いているから、次男の協力で多くの人にお伝えすることが叶っている。
 毎日SNSの友達との交信で笑顔を見せている。新しい時代の友達づくりだ。
 なにより神仏に忠実なのでそんなに心配する必要もないかと、この頃は思っている。
  やせて黒く丸まった榊の右側の新葉はいつの間にか脱げて、中にいた筒状の新葉が顔を見せた。もう明日から十月。


榊(さかき)の1枝が10か月も葉を落とさず新葉まで出してがんばっているのに
1つもメールがゴザイマセーン。そんな中1人
ミラちゃんの方にコメント頂きました。
ありがとう。
「わからない」それだけでもすごくうれしいです。

もしかして「くもの糸」のことかなと思って あらためて図書館
で、確実なことをしらべました。

「くもの糸」は大正七年に  鈴木三重吉が発行した
子供向けの雑誌の「赤い鳥」創刊号に寄せた芥川龍之介
最初の童話です
<あらすじ>
おしゃか様が極楽のはす池のふちに たたずんで、
はすの葉のあいだから ふと下の地獄の底をごらんになると
カンダタという男がほかの罪人と一緒に動めいていた。
カンダタは人を殺したり家に火をつけたり、いろいろ悪事を
はたらいた大どろぼうだが、1つだけ良いことをしたことがある。
小さなくもが1ぴきはっていくのをふみ殺そうと思ったが、ふと
かわいそうに思い助けてやった。
おしゃか様が それだけの良いことをしたむくいに地獄から
すくい出してやろうと思われた。極楽のくもが1匹銀色の糸を
かけていたのをはるか下にある地獄の底へまっすぐ下ろされた

まっ暗な血の池でほかの罪人といっしょにカンダタはういたり
しずんだりしていた。くらやみからぼんやり見える針の山の針が
光る、地獄の責苦(せめく)に疲れはて泣く力もない罪人ばかりの中でもがいていた
カンダタが血の池の空にくもの糸がたれてくるのを見つけた。

必死で糸をつかみ上に登って行ったが、ふと気がつくと
下の方から数かぎりもない罪人たちがあとをつけてよじのぼって
くるのを見つけ カンダタは大声でわめいた そのとたん
急にカンダタのところから糸が切れあっというまにやみの底に
おちてしまった。

せっかくのおしゃか様のご慈悲も自分だけ助かろうとする
無慈悲によりもとの地獄に落ちてしまった

本文は極楽の美しい様と地獄の身の毛もよだつ様との対象が
子供にもよくわかるように表現されているので。本物を一度
ごらんになるのもと思います

<赤い鳥名作童話2>
くもの糸 杜子春  1982年9月29日 第1刷 発行
著者 芥川龍之介
編者 赤い鳥の会

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