不思議な現象

  母は靖国神社の例祭に、毎年私を連れて行ってくれた。
 赤い銀座線、走りながら車内の照明が一瞬消える時代だった。
 春は桜、秋は大菊の品評会が有り、能舞台も楽しめた。
  私も懐かしい靖国神社に、子供の手を引きお参り、桜の花びらが散る神社を出るとき、
 ふと、周りを感慨深げに眺めている私自身が、私ではない、という感覚。
 繋いでいる息子の手が、孫を連れているという思い。
 そして軽くふっと出たため息も、母のものだった。
 初めての不思議な現象。
  母が一瞬の間、一緒にいてくれたんだと思っている。
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